お手紙一通。

「シュミリ、シュミリ！リツから手紙が届いているよ！」
「あらそう。どうぞ、貴方が先に読んでおいて」
もうすぐ春だろうか。きっとそうだろう。
自分の後を継いだかの様に冒険者になった娘からの手紙は、彼の楽しみのひとつで。
洗濯物を干しながらそう答える妻に甘えて、シンプルな封筒から中身を取り出す。

【父さん母さん、お祖母ちゃんお祖父ちゃん、お元気ですか。リツは元気です。村の人達も元気でしょうか。最近はお手紙が出せていなくてごめんなさい。でも元気です。】


最近手紙が送られてこなかったのは心配だったのは確かだ。
忙しいのだろうと思いつつも、ポストを見てはため息をついて、義母に笑われる日々が続いていた。


【地獄で大きな戦いがあって、そこで戦う皆さんの支援をしたりしましたが、個人的な冒険でも人形劇をしたりドラゴンズゲートを潜る程度です。父さんのような冒険をしていないので、それはそれでどうしようかなぁと悩んでいます。召還獣のミレナリィドールさんに会いたいのですが、道のりは長そうです。】


彼自身が現役だった頃、召還獣はまだ発見されていなかった。娘がその噂の召還獣を連れて里帰りしてくるのは楽しみで、けれど彼女がそれを頑張るために何か深い傷を負ったりすることは耐えられないなぁと思っていたりして。手紙の内容からして、風の噂で耳にしていた大戦でも、特に怪我はしなかったようだが。


【そうそう、新しい旅団の「薔薇の夜想曲」にお世話になり始めました。綺麗なお姉さんやかっこいいお兄さんや美味しそうな方ばかりです。】


「・・・」
毎度のことだが、嫌な予感がしてきた。
いつもそうだ、始まりは普通の遠い場所から親に宛てた子の手紙で、おっとりした彼女の微笑みが浮かぶ。だけどその次から、何かがおかしい。



【よだれはちゃんと拭いているので安心して下さい。】


「いや安心できないよ父さんは」
思わずつぶやいてしまった。手紙を読むたび、彼女の肉食ぶりが小さい時より悪化している気がする。


【「百面荘」でもきちんと生活しています。
今はちょっと理由あって、ヴェンデさん（何度も書きますが優しい団長さんです）に斬られそうになっていて逃げ回っていますが、多分大丈夫です。】


「だから何が大丈夫なんだ！！」
とうとう命の危険まで発生している。普通優しい団長が団員を斬る訳がないじゃないか。


【・・・ごめんなさい、今もう時間がないみたいなので、これで今回の手紙は終わります。（見つからないように隠れながら手紙を書くって大変なの）それじゃあこれくらいで。皆が病気や怪我をしないで暮らしていますように。　リツ】


「シュミリ！シュミリ！リツが命の危険に晒されているよ！！」
「あらそう、でも貴方は助けに行っちゃ駄目よ？」
「君は何でいつもそうおっとりしてるというか肝がすわってるんだ！！そこが好きだけど！！」
もうすぐ春だろうか。きっとそうだろう。